毎年夏休みを母と姉、弟、私の4人で帰省していましたが。 父は仕事が忙しく休めないため毎年家に残っていました。


















(ああ、もうそんな時間なんだなぁ )と思いました。


すると5分位してから玄関の開く音がし、誰かがサンダルを脱ぎ、また廊下をギシギシと歩きお爺さん達の部屋へと入って行きました。



 私は、(お爺さんかお婆さんが鶏の様子か、畑へでも行ってきたんだろう)



と思い、あれこれを想像しながら、やがて睡魔に襲われ いつの間にか眠ってしまいました。







それは、次の日も、またその次の日も繰り返され、どうやらその誰かは毎晩夜の11時半頃になると出かけて行き、0時5分頃に戻ってくるようでした。



あの頃の私は大人のすることには何でも興味を持っており 私は誰が何をしているのか、こっそりと見てみようと思ったのです。





その気配が玄関から出て行くのをじっと待ち、出て行ったのを確認してから、私も恐る恐る、玄関でサンダルをはき外へ出ていきました。







そして、たくさんある玉子の中から3つほど取り出し、玉子から顔を背けるといきなり、傍にあったブリキのごみ箱の中へ叩きつけたのです。




 私はびっくりして 




「なにしようるん?」 






と大声で言ってしましました。





「なんじゃ、坊か、ビックリさすなや」


と苦笑いを浮かべました。








「ヒヨコに悪いんがおるん?」と聞きました。 




お爺さんは、 「ほうよ、取らにゃあ大変なことになるんよ」 と言って孵化器の中からまた一つ玉子を取り出しました。









私の見た玉子には、中からヒナが突いたのでしょう、 大きなヒビがはいっており、もうじきヒナが孵りそうな様子でした。 



ごみ箱の中はスプラッタな様子が容易に想像できたので見たいとも思いませんでした。











出ようとしたその時、孵化室のドアの横に何か玩具のようなものが見えました。
気にはなりましたが、もう眠いしちょっと怖くなってきたので次の日見ることにして、お爺さんと一緒に母屋へ帰り その晩はお爺さんの布団で一緒に寝ることにしました。 





次の日、午前中、弟と虫取り遊びをし、帰って早めの昼食を取っていると何かの違和感を覚えました。 




(ああ、そうだ今日はお爺さんが居るんだ)








私達は、起こしてはいけないと思い静かに食事を済ませると外に遊びにいきました。


外に出てから前の晩にチラッと見た孵化室の玩具のようなものを思い出し、見に行くことにしました。 



昨夜は、そのカラフルな色合いから、玩具のように見えたのですが、それは何に使うものなのか全く見当がつかないものでした。 



私は、お爺さんが昨夜玉子を捨てていたごみ箱に気がつきました。
昨夜は暗くてよく分かりませんでしたが、明るいところで見るともそのごみ箱の蓋に、昔風の線を崩したような読めない字で何か書いてある古そうな紙が貼られていました。 


「あっ、!生まれとるで!・・・・え、・・・何・・アレ・・・」



孵化器を覗いた弟が、玉子が孵っているのを見つけたようでした。 






私は、生まれたてのヒナを見たくて孵化器の扉を開けました。 




すると
ヒナ?がいました。
しかし、そのヒナは他とは違い、全く震えておらず、さえずっていませんでした。



そして眼が、眼だけが、人のそれでした。 




私はその光景に異様さを感じ、動くことが出来ませんでした。





私が大声で何度も何度も弟の名前を読んでいると、お爺さんとお婆さんが息を切らしながら飛び込んできました。


「おいっ!見たんか!」




私は、お爺さんの形相が恐ろしくて


「見てない」


と答えました。 



お爺さんは私の目を見ながら


「見とるじゃろ。どっち行ったんなら?」


と怖い目で聞いてきました。


「あっち」 

と私は西のほうを指さしました。


するとお爺さんは出入り口の横に置いてあった粘土の牛と造花を持って、私の指さしたほうへと走って行きました 。







「ヒギョウ様と眼が合うたんか・・・・」



お婆さんは悲しそうに言いました。 


「もう治らんの?」


私は、弟とそれを見るお婆さんに幼いながらも、ただならぬ様子を感じそう尋ねました。 


「いや・・・・坊、そこの赤こうに塗っとる手鏡取ってくれ」



私が鏡面を朱色に塗られた手鏡を手渡すとお婆さんは 


「見ちゃあいけん、母ちゃんとこ行っとき」


と私を、孵化室の外へと出しました。







話をしてみると、確かに弟です。





しかし、どこか、何かが違うのです。 




母も、弟に何かを感じたのでしょう、お婆さんに 

「お母ちゃん、まさか・・・・」
と聞きました。


お婆さんが悲しそうに頷くだけでした。



母が弟を抱きしめてワンワンと泣いたのを覚えています。



弟はキョトンとしています。



姉は、弟を薄気味悪そうに見ていましたが、
母が泣くのを見て一緒に泣いてしましました。


しばらくすると、お爺さんが帰ってきました。



「だめじゃ、間に合わんだ」



そう言って悲しそうに首をふりました。 





そういうとお爺さんは弟を抱きしめ 

お爺さんはボロボロと涙を流して謝りました。



弟は、「何?お爺ちゃん痛いよ」等言っていました。 

その声、そのしぐさ、確かに弟なのですが、やはりソレは弟ではありませんでした。 
後からお爺さんが言いました。  ゃ、そんじゃけぇ 間引かなあかんのよ」



「夜に生まれたヒナも『ヒギョウ様』になるの?」と私は聞きました。 
「誰に・・・ほうか、婆さんが言うたんじゃな。いや、違う。夜に生まれたヒナはも
このときの話はこれで終わりになります。


後に、私が高校の時に、実家が養鶏場を営んでいる同級生がいたので、そいついに『ヒギョウ様』について聞いてみると、 「ああ、『言わし鶏』のことだな」 
と言っていました。   今は、何でもオートメーション化しており、センサーとタイマーで自動的に12時と24時に孵りそうな玉子は排除されるそうです。   あれからも毎年島根へと帰省しています、弟は元気に小学校の教師をしています。   もう、以前の弟がどうだったのか覚えていません、だからもういいのです。 アレから20年も家族として暮らしてきたのですから。